企業経営者の皆様におかれましては、従業員さんから「上司からパワハラを受けてうつ病になったので労災手続をしてほしいんですが。」と申し出があったことはございませんか。
特に最近、パワハラ・セクハラ・カスハラ等のハラスメントに対する従業員さんの意識が高まっているため、このような申し出が増える傾向にあります。
もしこのような申し出があったとき、会社としてはどのように対応すべきなのでしょうか。
今回はこの点について取り上げてみたいと思います。
労災(労働災害)とは、仕事中に仕事が原因で怪我や病気をすることをいいま
す。専門的な表現をしますと、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つが認め
られる場合に労災と認定されることになります。
従業員さんから、パワハラが原因でうつ病になったという申出があった場合、それが明らかなのであれば会社としては労災申請に協力しなければなりません。
しかし、労災であることを疑う余地がある場合は、労働基準監督署に対しては「労災」でないとして交渉しつつ、当該従業員本人に対しても「労災」ではなく「私傷病」として対応することが基本です。
「私傷病」の場合、有給休暇を取得するか又は休職してもらい、休職で賃金カットされた分については健康保険の傷病手当金を受給してもらうことになります。
うつ病が労災認定されるかを会社が判断したい場合は、会社で事実関係を調査し、それを厚生労働省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」に当てはめて検証する必要があります。
例えば、人格や人間性を否定するような業務上必要のない暴言があったか、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の従業員の面前における大声での威圧的な叱責があったか等の事実関係を調査することが重要です。
その上で、会社として、当該従業員の申出内容がパワハラを主たる原因としたうつ病発症、つまり労災に該当するか否かを判断することになります。
そのような検討を会社として行ったうえで、労災であると判断される場合は労働基準監督署に労災申請することになりますし、逆に労災でないと判断される場合は当該従業員が会社に持ってきた労災の申請書類に会社としての証明をし
ないことになります。
ちなみに、労災申請をするのは原則として従業員本人であり、会社はあくまで事業主証明欄に証明するのみです。
なお、従業員の持参した労災申請書類に会社として証明しなかったとしても、当該従業員が労働基準監督署へ労災申請書類を提出すれば受理はされます。
そしてその後会社に労働基準監督署から問い合わせがありますので、その際に会社として調査した内容を主張することになります。
従業員さんがうつ病にならない職場環境を作ることは、「健康配慮義務」とし
て法律で事業主さんに義務付けられています。
働きやすい環境があった方が労使ともにうれしいですよね。