京都の夏は暑い事で有名です。
特に今年の7月は13日間連続の猛暑日、そして7日間連続の38℃超えという前代未聞の記録を打ち立てました。
そんな中、いかにこの暑さをやり過ごすか、ということで、メディアでは鞍馬・貴船や比叡山など「物理的に涼しい」納涼スポットが紹介されるわけですが、住民である我々も、おいそれと気軽に行けるような場所ではありません。
まして、最近は海外の方をはじめお客さんの数が多いので、何をするにも長蛇の列。いくら中心部より涼しいとはいえ、炎天下の路上で待たされたら、もはや何をしに行ったのやら分かりません。
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などと、テレビ通販のノリで紹介していいものかどうか分かりませんが、とにかくかの地は市内有数の避暑地、都会のオアシスであることは間違いありません。
それでは、これからちょっと下鴨神社まで、木漏れ日の散策路を涼みに出かけましょう。
アクセスは良好、京阪出町柳駅から徒歩で10分足らずです。
地下の出町柳駅から地上に出て河合橋を渡り、葵公園の脇を抜けると前方にうっそうとした森が見えてきます。これが糺の森で、「ただすのもり」と読みます。下鴨神社の鎮守の森で、面積は12.4万平方メートル、東京ドーム…いや、甲子園球場3.2個分の大きさです。
この森は、平安京以前から千年以上の時を超えて残る「原生林」であり、ケヤキやエノキなどの広葉樹を異中心に、50種以上5,000本近い樹林が広がっています。
樹齢数百年の大木も多く、人のアクセスが困難な山岳や離島でもない都市の真ん中で、このような植生が観察できる場所は稀なようです。
1983年には、森そのものが国の史跡として登録されました。
「ただす」の名の由来は定まらず、鴨川と高野川の合流地点に近いことから「只洲」、古来和歌に謳われた文脈から偽りを「質す」など、諸説あります。
森の中に歩みを進めると、車などの人工的な喧騒は消え、鳥や蝉の鳴く音、人々が砂利を踏みしめる音だけが聞こえてきます。
さて、森の中には、いくつかの小川が流れています。
元々、糺の森の中を流れる小川は全て湧き水でしたが、高野川の河川改修(洪水対策のための河床の掘り下げなど)によって多くが涸れてしまったそうです。
このため、現在は上流から高野川の水を引いて回しています。
境内で唯一、湧き水が残っているのが御手洗(みたらし)川です。
神社本殿脇の御手洗池から湧き出す清水が源で、夏でもキリッと冷たい水の流れは、見ているだけで涼しく感じます。
余談ですが、この御手洗池の水の泡をイメージしたお菓子が「みたらし団子」のルーツなのだとか。
元々は醤油だけをつけて焼かれていた素朴な団子でしたが、下鴨神社の氏子であった菓子店が、醤油に黒砂糖と葛粉でとろみをつけた餡を絡めて売ると爆発的ヒットになり、それが全国に広がったと伝えられています。戦後の話です。
私はてっきり「みたらし」団子とは「密垂らし」団子なのだと思っていました。
そういえば、今でも飛騨高山の街角で売られているみたらし団子は醤油をつけただけなので、疑問に思ったことがありましたが、どうやら飛騨の団子こそが「オリジナル」に近いもののようですね。
糺の森は、グーグルストリートビューで撮影されていますので、疑似散策を楽しめます。
https://www.google.co.jp/maps/@35.0345996,135.7725768,2a,75y,1.61h,86.63t/data=!3m6!1e1!3m4!1s3iDLx6RtvxXtgLRnm1FOKQ!2e0!7i13312!8i6656
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立派な楼門をくぐると、御手洗川を右手に見ながら、中門へ。
さらに中へ進むと、いよいよ国宝の本殿が見えてきます。
下鴨神社の歴史は古く、文書による記録は紀元前90年頃から残っているようですが、当然それ以前より存在していると考えられ、正確な起源は不詳です。
神社の格式としては非常に高く、平安時代には式年遷宮を行ったり、斎王(天皇の皇女・未婚の内親王)を置くなどした時期もありました。特に、斎王という制度を持った神社は、ここ下鴨神社のほかに、あの伊勢神宮があるだけです。
ちなみに、下鴨神社は通称で、本当の名は「賀茂御祖(かもみそ)神社」。
上賀茂神社、本名:賀茂別雷(かもわけいかづち)神社とともに「賀茂社」とくくられます。
こうして本当の名を挙げるとと、どちらも「鴨」ではなく「賀茂」。
賀茂社は、この地を治めた古代氏族・賀茂氏の氏神を祀る神社であり、往年の彼らの権勢をしのばせる場所でもあります。
どちらに先に行くべきかとか、どちらも参拝しないといけないというものではありません。通称には上とか下とかついていますが、位置関係を表しているだけで、特に序列的な意味はありません。いずれもユネスコの世界文化遺産に登録されています。
世界遺産・下鴨神社そのものの見どころは、それはもう掃いて捨てるほどガイドがありますので他に譲るとして、いかに納涼するか、という観点に集中しましょう。
・森林浴
すっかりコンクリートジャングルな京都のまちなかは、真夏の日中は到底「歩けたもんやない」灼熱地獄です。
その中でも、糺の森は、外界と打って変わって木漏れ日の中を通り抜ける風が「若干」心地よい「気が」します(消極的)。
いえ、気温でいうと確実に2~3℃は低いので、涼しいはずです。
しかし、元の気温が高すぎれば焼け石に水…近頃は日中は外を出歩かないのが吉ではなかろうかと思います。
それでも、どうしても限られた日程で夏の京都を巡りたい、という方に、下鴨神社界隈はひとまずお勧めしたい場所です。
・御手洗祭り
SNSが流行り出してから、にわかに有名になってきました。
毎年土用の時期の前後に御手洗川にしずしずと入り、御手洗社の祭壇にろうそくを献灯するという行事です。
御手洗川は前述のとおり湧き水なので、驚くほど冷たいです。
外気温が高いだけに、水温との落差が半端ないです。「冷たっ!」の悲鳴がたくさん聞こえます。
御手洗川に素足で合法的に?突入できるのは「御手洗祭り」の時期だけなので、注目度高めです。と言いつつ、今年はもう終わってしまいました。
例年、7月第三週~四週にかけて行われます。混雑するようになってきたので、徐々に開催期間が長くなっています。
夜は幻想的ですが、フォトジェニックなためインスタに映やしたい人が多過ぎです。人ごみの中1時間も並んでいたら納涼どころの騒ぎではありません。
逆に、昼間はここに来るまでが暑すぎて…。涼しさを感じたいなら夕方早い時間か午前中がおすすめです。
人出のピーク時間帯を外すと露店はやっていませんが、この暑さの中、誰が焼きそばとかお好み焼きを買うんでしょうね。
・納涼古本まつり
糺の森では、毎年お盆の時期に市内外の古書店が一堂に会する古本まつりが開かれています。
文庫、新書、漫画、児童書、専門書など、ジャンル問わず80万冊が集まります。
開催回数も30回を超え、恒例イベントになっています。
ちょっと怖い話でも探して、木漏れ日の中で読書しながらうだうだと…などという画になる過ごし方も、この酷暑では少々厳しいかと。
下鴨界隈には喫茶店もたくさんありますので、夕方までは屋内に避難するに限ります。
実は下鴨神社の中も、ストリートビューで回れます。
https://www.google.co.jp/maps/@35.0383283,135.7728947,2a,75y,11.38h,88.45t/data=!3m6!1e1!3m4!1sRLi9JmD79cDGG-3FihJntg!2e0!7i13312!8i6656
エアコンの効いた涼しい部屋で眺めていると、なんだか行った気になってしまいますね。
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さて、あんまり暑い暑い言うとうっとうしいとも思うのですが、「暑おすなぁ」
「いや~ほんまに、えっらい暑おすなぁ」のやり取りは、この時期の京都では「こんにちは」に近いニュアンスがあります。
というか、最近ご近所さん同士で「こんにちは」を発していません。
多様な人間が入れ代わり立ち代わり交錯してきた古都の地で、人々が味わってきた「暑さ」は、時を超え身分を超え、今を生きる我々も、古を生きた先達も、今では貴重となった万人がシェアできる同じ「感覚」であり「体験」なのです。
(そうやって綺麗に言うには、直近の気候の有り様はあまりにも度が過ぎている気もしますが)
毎年お盆を過ぎる頃になれば、暑さも和らいできます。
それまでの辛抱と、自分にも周りにも、言い聞かせております。