この夏、全国的に「民泊」が話題となりました。
国としては、法整備を進め、拡充していく方向を考えているようですが、人様
に貸せるような物件など持たぬ一般市民の目線からは、他人事でしかないと
思っておりました。
ところが、そこは観光都市・京都。
一市民とて、決して無縁ではいられなかったのです。
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一般的には、住んでいる家の空き部屋を旅行者に一時的に提供することを指しているようで、古くから「ホームステイ」や「農村体験」などの形態が知られています。
ただ、最近は金銭の授受を伴うものを「民泊」と呼ぶことが増えています。
昨今の「民泊ビジネス」の仕組みは、貸す側の遊休資産を活用して、それを利用したい人へ繋ぐことで社会全体の効率化を目指そうとする「シェアリングエコノミー」という考え方が色濃く反映されています。
この「需給の調整」場面で大きな役割を担うのがインターネットと、仲介サイトの存在で、よく知られているのが「Airbnb(エアビーアンドビー・以下エアビー)」と呼ばれるアメリカ発のサイトです。
(エアビーアンドビー日本版)
https://www.airbnb.jp/
利用客の多くは欧米人が占めていますが、日本語版がリリースされてから、日本でも物件の登録や仲介・利用が盛んになってきました。ただ、日本人の旅行シーンで一般的に浸透しているとはいえず、今でも利用者の多くは海外の旅行者だと思われます。
実際、私が2010年頃に海外放浪をしていたころは、「カウチサーフィン」というサイトが一部の旅行者の間で知られている程度で、「エアビー」は名前も聞いたことがありませんでした。
(カウチサーフィン…英語です)
https://www.couchsurfing.com/
「カウチサーフィン」は、金銭のやり取りを行わず、ゲスト(利用者)がホスト(貸主)の住居の一室とシャワーを借りる、という善意が前提のサービス(コミュニティ)です。
「人の家に泊まる」ということから、必然的にホストとの交流が発生し、意気投合すれば一緒に食事をとったり、観光したりもします(ホストもゲストも旅好きですから!)。
私はこちらのほうがより「民泊」という言葉がフィットしていると感じます。
どうして成り立つのかって?それは、自分が旅行した時は借り手、自分が家にいるときは恩に報いる形で貸し手をやるからです。素敵でしょう?
一方、エアビーは完全にビジネスとして運営されているところが肝です。
利用者は、WEBサイトでホテルを予約するように、一般の方の住居の一室や物件丸ごと一棟を押さえ、カードで決済し、宿泊します。
一棟貸しなどの場合は、スマホが開錠キーとなり、ゲストとホストの交流・接触は一切ないケースも多いです。また、エアビーなどのサイト運営側は、宿泊料から仲介手数料を引いた額を、ホストへ支払います。
日本においてエアビーや民泊が急速に浸透したのは、やはり「儲け話の文脈」で語られることが増えたからだと言えるでしょう。
家主からすれば、立地にもよりますが一泊3万円程度で設定できて、稼働率が半分を超えれば一般的な賃貸に出すよりも高いリターンが見込めると言われています(現実には、清掃やサイトの登録、値付けの設定やレビューの管理など、様々な雑事が伴いますが)。
京都では、旺盛な海外旅行者の観光需要を背景に民泊が急速に浸透し、早朝から深夜まで、これまで殆ど観光客の姿を見ることのなかった住宅街の細い路地を、旅行者がスーツケースを手に歩く姿が目につくようになりました。
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民泊との接点は、突然やってきました。
その日、土曜の夕方でしたが、玄関チャイムに促され炊事の手を止めると、お若いスーツの男女が現れました。
名刺をいただき、こっちの者は建築で、こっちの者は運営で、と名乗り出るもすぐに「この路地入口の空家物件を取得し、中を改装して宿にする」とか「役所に許可も取っており、ご迷惑はかけませんのでよろしく」などと畳みかけ、タオルを手渡されました。
こちらの頭の中は、人参を茹でた後に小松菜と和えて…などという状態でしたから、いきなり「宿泊業の許認可」「改装工事の日程が」とか「弊社が何卒」などと言われても、頭の中に入ってきません。
結局「へぇ」「はぁ」と適当に相槌を打つことくらいしかできず、彼らはそのまますぐに去っていきました。
(不覚にも、タオルは受け取ってしまいました…苦笑)
その後妻と「なんだかそんなことになるらしいよ」「ふーん、最近流行ってるしねぇ」などと会話するものの、特に気に留めることもなく、この件はすぐに忘れてしまいました。
それからしばらくして、回覧板が回ります。
お題は「民泊の是非について話し合いの場を持つ件」。
どうやら、我が町内では懸念の声が日増しに高まり、運営条件などをしっかり開示させ、納得のいく形へもっていきたいとの趣旨。
自分の路地の話なので、参加することにしました。
ふたを開けてみると、民泊とはいえ、管理人常駐無し、サイト上で予約決済をして、スマホなどで開錠する、要は一棟貸しスタイルの「超短期の貸別荘」。
宿屋というよりは、ネットを使った新手の不動産業なのは先程述べた通り。
町内側の意見としては、
などが条件として示されました。
隣にお住まいの方はもっと切実で、窓の増設は一切拒否、既存のものも可能な限り塞ぎ、覗けないようにせよ、とか、ルールを守ってもらえないことを前提に、密閉された喫煙ルームを設けよとか、騒々しくなることは目に見えているので騒音対策で二重サッシを用いよなどなど、様々な要望を挙げらておられました。
当然、しばらく町内の話題はこの民泊問題一色となりました。
(後編へ続く)