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別天地・宝ヶ池

京都市民のオアシス、宝ヶ池(たからがいけ)をご存知ですか?

京都駅から地下鉄烏丸線の北行きに乗って20分ほど、終点の国際会館駅から歩いて10分ほどのところにある池です。
五山の送り火が近づいてきましたが、「妙法」が灯される山の裏手が、ちょうど宝ヶ池のあるあたりです。

■宝ヶ池公園の成り立ち

周囲1.5kmほどの池の周りは、森に囲まれた「宝ヶ池公園」として整備され、「子どもの楽園」と呼ばれる大型遊具のあるエリア、国際会議が開かれる「京都国際会館」、隣接するホテル「ザ・プリンス京都宝ヶ池」などが散在してお
り、家屋が密集した京都市街とは全く趣の異なる、緑に囲まれた別天地、といった様子です。

広大な宝ヶ池公園の中で、池そのものはかなり西の方にあり、反対の公園の東端は高野川のすぐそばまで、実に128.9ヘクタールもの面積があります。

さて、宝ヶ池自体は自然の地形ではなく、江戸時代に灌漑用に作られた人工の池です。
明治末期の文書に初めて「宝池」の名が出ており、その名の由来ははっきりしていません。

一帯は戦前より度々開発の計画が立ち上がり、戦後は京都市会で動物園、自然科学館、運動競技場、水泳場、遊歩道その他娯楽場等の施設を整備する方針が打ち出されますが、財政難によってその計画内容は流転し、なかなか当初の壮大な施設整備は実現しません。

1949(昭和24)年には、今「子どもの楽園」がある公園東側のエリアに、競輪場が建設されました。
今も昔も財政難の京都市ですが、当時は起死回生のため公営ギャンブル運営に走ったのですね。
一時は市財政に莫大な収入をもたらした競輪事業ですが、一方で市民の反発は強く、10年もたずに閉鎖されてしまいます。
その後、1964年には現在の「子どもの楽園」へと再整備されました。

子どもの楽園には、長らく競輪場のスタンドが残されており、屋根の下で親子連れがお弁当を食べる休憩スペースとして利用されていましたが、今から15年ほど前には解体されてしまいました。
昔は「大人の楽園」だったことを示す貴重な遺構でしたが、夏草や、兵どもが夢のあと。

宝ヶ池一帯が転機を迎えたのは1966年の「国立京都国際会館」の開設です。
地下鉄の駅名ともなっている京都国際会館は、建築家・大谷幸夫の設計で、白川郷の合掌造のような急傾斜の屋根を模した構造が遠目にもよくわかります。
1997年にはここで気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開かれ、「京都議定書」が採択されたことでも知られています。

この国際会館の建設を機に、「いこいの森」や「野鳥の森」など、現在まで続いているエリアが整備され、宝ヶ池公園の形が確立しました。

■宝ヶ池で過ごす

宝ヶ池公園には、話題のアクティビティや、オシャレなカフェはおろかコンビニさえなどはありません。
でも、小さな子がいるなら、彼らにとってはパラダイスです。

今の時期、子どもの楽園では、水遊びができる水路で遊ぶ子どもたちで溢れかえっています。
水着を持ってこなかった子は、全身びしょびしょになりながら、水を掛け合っています。

宝ヶ池のほとりへ行けば、大小様々な動物たちの宝庫です。
歩いているだけで、市街地では見られない野鳥や虫たち、池を泳ぐ鯉や亀が目に飛び込んできます。
最近は野生の鹿も多くいて、白昼に出くわすとびっくりします。

動物と言えば、馬もいます。
時代祭や葵祭を先導する京都府警・平安騎馬隊の厩が公園の敷地内にあり、見学させてくれます。タイミングが良ければ、散歩している馬を間近で見ることができます。
日本の警察の騎馬隊は、全国でもほかに警視庁と皇宮警察にしかないので、貴重な存在です。

池を一周できる散策路にはどんぐりが転がり、四季折々の花が咲きます。
水辺の木陰を歩けるだけで、気持ちがいいものです。

こんな様子なので、池の周りはランニングする人、歩く人、老若男女問わず静かに緩やかな時間が流れています。
どことなく鴨川に通じる雰囲気ですね。

大人たちにとっても、森林浴をしながら、街中の喧騒を忘れて過ごせる場所なのです。

なお、池ではボートが借りられます。
1時間1,000円なので、かなり安い?
でも、地元の人間の間では、宝ヶ池のボートに乗ったカップルは別れると言われてます。真偽のほどは……?

林に囲まれ、周囲からやや隔絶された雰囲気の「ザ・プリンス京都宝ヶ池」も良いホテルです。
前身の「京都宝ヶ池プリンスホテル」時代から数えればもう築40年近い物件ですが、村野藤吾設計の「0」の形をした円形の建物で、中央には吹き抜けの中庭があります。
大理石の床に、ぜいたくに使った土地・空間。
近年の京都市内のホテル建設ラッシュでは、街中の狭い土地に建ぺい率ギリギリのマッチ箱のようなビルばかりですから、余計にその違いが際立ちます。

効率を考えれば致し方ないことですが、もうこの街でこんなホテルが建つことはないだろうな……と思わせる、バブル期の夢の結晶に触れるのも、ある意味稀少な体験かもしれません。

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さて、なんだかとりとめのない文章になってしまいましたが、さしづめ、このとりとめのなさこそが、宝ヶ池公園のリアルな姿です。

それだけの余白があり、どう過ごすのかは利用者に委ねられている、そんなおおらかさを感じる場所でもあります。
市中心部から地下鉄であっという間にたどり着ける宝ヶ池公園。
押し寄せるインバウンドの喧騒に疲れたら、市民のオアシスに一度足を伸ばしてみてはいかがでしょう。